妊娠し、赤ちゃんの成長を自分の体で感じながら過ごす女性と異なり、男性はどうしても父親としての自覚が芽生えにくく、子どもへの関心を持ちにくいものです。「妊娠・出産は妻に任せておけばいい」と考えている男性も少なからずいます。とはいえ、妊娠・出産、その後の育児は、夫婦の協力なしにうまく進めることはできません。この記事では、妊娠中から家事や仕事を分担し、男性も産後の子育てをイメージできるよう促すコツについて紹介します。
目次
旦那さんが出産準備に無関心で悩む人は多い
旦那さんの出産準備への無関心は、多くの女性の悩みの一つです。最初に妊娠中の夫に対する不満について、ママがどのように考えているのか紹介します。
不満を持つ人の割合
インターネットサイト「womama(ウーママ)」が2005年11月、妊娠6カ月から、子どもが3歳までの女性を対象に実施した調査をおこなっています。
この調査によると、約6割以上のママが夫に不満を持っているとされています。
その中でも「大変さをわかってくれないこと」が第1位となっており、「夫に理解してもらえていない」と感じることがママにとってのストレス・不満へとつながっていることが伺えます。
夫への不満を持つ人の体験談
具体的に、夫のどのような行動が「大変さを理解してもらえていない」と感じてしまう原因となっているのでしょうか。
よくあるのは、夫の「いってくれたらやるよ」「何すればいいか指示して」といった発言です。
こうした発言に対してママは、「仕事なら自分から考えて動くのに、妊娠や出産、育児のことになると指示待ちになるのはどうして?」と不満を感じてしまいがちです。
また、具体的に頼んだ事柄について、適当と感じられる対応を取ることもママの不満の原因となります。
これらの行動から、ママは自身や赤ちゃんへの愛情を感じにくくなってしまい、不満へとつながります。臨床で働いていても、やはり「(旦那さんが)父親としての自覚が乏しい」ことを心配されているママは非常に多くいらっしゃいます。
出産準備に無関心な旦那の行動とは
旦那さんの無関心ともとれる行動の裏には、どのような意識が潜んでいるのでしょうか。その理由を整理してみましょう。
仕事優先
「妊娠中はパパとしてできることは少ない、ならば仕事を頑張ろう!」と考えてしまう男性は非常に多くいます。
ママにとっては残念なことに、妻の妊娠中にこのように考える男性は、多くの場合、産後も「育児のメインは妻に任せるので、自分は仕事を頑張ろう!」と考える傾向にあります。
これは決して出産準備への無関心さが原因ではなく、「仕事を優先することこそが父親としての役割だ」と考えていることが原因です。
このような旦那さんには、仕事だけが父親の役割ではないことをよく伝え、ママがどうしてほしいと感じているかについて、しっかりと話をする必要がありますね。
趣味優先
「産後は育児が大変になるから、趣味の時間が作れないかもしれない。今のうちに趣味に没頭させてもらおう!」と考える男性もいます。
しかしそれはあくまで、夫婦で話し合い、妻の理解が得られたうえで成り立つ話です。
ママは妊娠中から、待ったなしに身体と心の変化が始まります。すでに自分優先ではなく胎児優先の生活を送っていることに、悪気なく気付いていない旦那さんもいます。夫だけが「今まで通りでOK!」とはできないかもしれません。
ママの生活の変化を伝えて、どうしていくのがよいのか、ご夫婦での話し合いが必要ですね。
妻任せ
出産後の準備についてママが旦那さんに相談すると、「好きにしていいよ」と答えるケースがかなり多くあります。
この言葉には一緒に考える意思のない、無責任さが潜んではいないでしょうか。旦那さんにとっても、一緒に考えることを放棄し、妻に言われたことをおこなう、あるいはすべて妻に一任するのは、貴重なご夫婦のコミュニケーションの時間を無駄にしており、非常にもったいないともいえます。
必要な物の準備や手続きなどの細かなことだけではなく、これからどのような家族になっていきたいかなど、大きなことも、会話の中で出し合い、お互いへの理解を深める時間にできればよいですね。
気遣いがない
男性は妊娠を体感できないことから、また働き盛りで仕事や趣味に忙しいことから、ママと時間を共有できないことが多いかもしれません。しかし、どういった状況であったとしても、「気遣い」をすることはできるはずですね。
たとえば、体調の変化を気遣う、家事や仕事の負担がないか気遣う、不安なことはないか、できることはないか気遣うなど、体感できないからこそ夫の側からの声掛けがとても大事になってきます。
旦那さんには、妊娠中はもちろん、産後にはホルモンの影響でママの気持ちの浮き沈みはより激しくなること、妊娠中から適切なコミュニケーションと気遣いを示してほしいことを伝えていきましょう。
出産準備に無関心な旦那への対処法とは
無関心な旦那さんの自覚を促し、姿勢を変えてもらうことは、一人ではなかなか難しい部分もあります。ここでは、そのような旦那さんの理解を促すアプローチについて紹介します。
マタニティセミナーへの参加
旦那さんの自覚を促すきっかけとして、両親学級やマタニティセミナーへの参加は効果的な方法の一つです。
旦那さんにとっては、先輩パパの体験談やアドバイス、同じような立場のパパとの意見交換は、受け入れやすく自身を振り返るきっかけとしやすいでしょう。また、ほかのママの不安や悩みならば、妻からの言葉よりも冷静に受け止めることができるかもしれません。
セミナーによっては、ママ向けのものもありますので、「ご夫婦向け」のセミナーに申し込むことをおすすめします。そのほうが、旦那さんも自分ごととして捉えやすく、帰宅後もどのように行動したらよいかがよりわかりやすいかと思います。
出産関係の学習
出産に関して学ぶことも、旦那さんの意識改革に有効です。学習方法としては、本や雑誌、動画など、さまざまなものがあります。
本や雑誌はママ向けのものだけではなく、「かっこいいパパ」向けに構成されたものもあります。パパ向けの媒体はママ向けのものとはアプローチがまったく異なりますので、旦那さんの参考となるヒントがたくさんあるでしょう。
また動画は渡して見ていてもらうのではなく、時間を作ってコミュニケーションをとりながら一緒にご覧になるとより効果的ですね。ぜひ試してみてください。
旦那にやってほしいことを依頼する
男性は女性と違い、人生のなかでもあまり妊娠や出産を自分ごととして捉える機会がなく育ってきているため、「ともかく何から手をつけていいのかがわからない!」という方も多くいらっしゃいます。
大切な妻のためですので、依頼されたことやお願いされたことは「叶えてあげたい」と思ってくれる(ハズ)です。具体的にお願いしたいことを伝えてみましょう。また、なぜそれをお願いしたいかについても、一緒に伝えるようにしましょう。決して強制するような強い言い方にならないようにしたいですね。
出産準備リストを作成する
出産に際してさまざまな物の準備が必要ということはわかっていても、具体的にどのようなものが必要なのかはわからない方も多くいます(もちろんそれは女性も同様ですが)。
出産準備リストを、ご夫婦で一緒に作ってみましょう。リストを作成するなかで、産後の生活や費用などについて具体的にイメージできるほか、必要な物がどこに売っているかをご夫婦で共有できることは、産後の生活においても有益です。
何が必要か必要でないのか、それぞれのご家庭にあったリストを一緒に作成できるといいですね。
出産に必要なものリストについては、こちらの記事もご参照ください。
出産時の役割を決める
最近では、旦那さんの立ち会い出産をするご夫婦も多くなりました。出産の際に、旦那さんにはどのようなサポートをおこなってほしいのか、具体的に考えておきましょう。たとえば、呼吸法を一緒に練習してみる、マッサージを練習してみるといったこともよいですね。
また、赤ちゃんが出てくるその瞬間の役割についても、考えておくとよいかもしれません。写真を撮るのか動画を撮るのか、ママの顔も映してほしいの、そうでないのかなど、具体的に考えようとすると、必然的に出産の流れについても学ぶことになります。
出産時の役割とともに、出産の流れも一緒に確認してみてください。
家電を購入
妊娠中から家事分担が難しくなってきている、あるいは産後のサポートの手が少ないことが予想される、早くからの仕事復帰が決まっているなどであれば、「時短家電」の購入も検討されることをおすすめします。
出産後はご夫婦2人だけで、それまでと同じ生活を維持することは非常に困難です。うまく家事の時間を短縮できるように、乾燥機や食洗機などの家電の購入も妊娠中に検討しましょう。
家事代行サービスを利用
時短家電だけではなく家事代行サービスを利用するのも選択肢の一つです。
多くの自治体では、産後の一定期間は公的な家事サポートなどの利用が可能ですし、民間でも多くのサービスがあります。
旦那さんのサポートが難しいのであれば、別のサポートを検討しましょう。
何より決して、「仕方がないから自分でやる」といったように、妊娠中・産後のママが無理をしてしまわずに済むような体制を整えておくことが非常に重要です。
ママは、産後はまずしっかりと休むことが必要。そのための準備をご夫婦で進めましょう。
出産準備に関心を持たない夫のリスク
旦那さんが出産準備に関心を持たない場合、将来的にも家族に大きな影響をもたらす可能性があります。どのような影響が考えられるか、整理していきましょう。
追加の子ども予定数に影響
ママが子どもを2人目、3人目とほしいと考えられるかどうかは、夫の育児参加の度合いに大きく左右されます。
当然のことながら、育児に積極的な夫とともに子育てをするほうが幸福感が高く、そのため、もう1人子どもがほしい、と感じるママが多くなります。また、夫が育児に積極的であればあるほど、ママが就業を継続できる可能性が高くなります。
「子どもは1人だけで手一杯、仕事なんてままならない」といった状況にママが追い込まれないためには、旦那さんの協力が不可欠です。産後からではなく、妊娠中からそのことを意識して、お2人で育児ができるような環境を整えておく必要がありますね。
産後クライシス
「産後クライシス」とは、妻が出産を終えてから数年の間に、夫婦の互いへの愛情が急に冷めたように感じて仲が悪くなることです。
産後クライシスが発生する理由の一つは、育児期間中に女性の興味関心が大幅に子どもに偏ることといわれます。
女性の愛情が生涯を通じてどのように変化していくのかを示す、「女性の愛情曲線」という有名なグラフがあります。このグラフによれば、産後はパートナーへの愛情の割合がグッと減少し、子どもへと向きます。
この期間が、産後クライシスと呼ばれる期間です。
子育てがひと段落しこの期間を過ぎてから、女性の夫に対する愛情が回復するかどうかは、出産直後から乳幼児期にかけての夫の関わり方によって変わります。
産後に関する理解を深め、お互いを思いやれるようご夫婦ともに意識してコミュニケーションを取るよう話し合っておきましょう。
夫ができる出産準備とは
旦那さんが出産前にすべき準備とは、基本的にママがおこなう準備と変わりません。ポイントはいかに旦那さんの当事者意識を高めるかにあります。
出産準備をご夫婦2人で進めることで、コミュニケーションが増え、旦那さんの意識やも取りやすくなるかと思いますので、ご一緒に準備する時間を作るようにしましょう。
出産に関する手続き
出産後はさまざまな手続きをおこなう必要があります。これらは必ずご夫婦で理解しておきましょう。
妊娠後期や産後には、ママや赤ちゃんの体調が急変し、急な入院となる可能性もゼロではありません。その間、旦那さん1人でも必要な手続きを進められるよう、しっかりとご夫婦で把握しておきましょう。
たとえば出生届は生後14日以内に提出する必要があるなど、ママは体調が回復していない時期でもあります。最初からこれらの手続きは、まさに旦那さんの出番です。
具体的には出生届、出生連絡票、健康保険、児童手当、出産手当金、出産育児一時金、乳幼児医療費助成などの書類の準備や記入、提出先の確認などが必要です。
勤務先などへの提出が必要なもの、役所など公的機関に提出が必要なもの、出生前から手続き可能なものや出生後にしかできないものまでさまざまです。何度も同じ施設に出向かなくて済むよう、妊娠中に必要書類を整え、準備をしましょう。
内祝い準備
忘れずにしておきたいのが内祝いの準備です。内祝いとは、出産祝いに対するお返しのことを指し、贈る時期は赤ちゃんが生後1カ月になるころが目安といわれています。
この時期に間に合うように内祝いをお送りしようと思うと、産後ではご夫婦にとって負担になってしまいます。また、お相手によってはママでは好みがわかりかねることもあるでしょう。旦那さんが主体となって、妊娠中に贈り物の目星をつけ、手配の方法まで把握しておくと安心です。
積極的なコミュニケーション
出産が近づいてくるに従い、ママは思うように体を動かせず、不安も増えてくるものです。また、出産後はまさに怒涛の日々が始まります。ママの心はどんどんゆとりがなくなり、精神的に追い詰められていくこともあります。
旦那さんの側から見ると、妊娠という、自身が体験できないことを妻が経験し、かつあまり元気ではない、という状況において、「どうコミュニケーションを取ればいいのかわからない」「話しづらい」というのが本音のようです。
旦那さんには出産前、ゆとりのある時期に、ママの気持ちがどのように変化してくかを伝え、積極的に日々の会話やコミュニケーションの時間を取ってほしいことを伝えておきましょう。
また、声のかけかたについても、具体的に要望しておくことをおすすめします。
たとえば、「体調のよいときには、『前はこうしてといっていたけど、今はどうしてほしい?』と聞いてほしい」「2人の子どもをお腹の中で育てていることについて、『ありがとう』と言ってほしい」などと伝えます。
もちろん、これは妊娠中だけに限ったことではなく、産後もぜひ続けていってほしい習慣の一つです。
また昨今ではテレワークの普及によって、旦那さんが家にいるケースも多いのではないでしょうか。
出産までの時間を一緒に過ごせる機会ですので、十分にコミュニケーションを取りながらママが安心して出産を迎えられるようにサポートできるとよいですね。
まとめ
旦那さんにとって出産準備は、主体的に取り組むことが難しい部分もあります。妊娠を体感できない男性は「そういうもの」と理解しつつ、諦めずに理解を促していきましょう。
そのためには2人で一緒に準備を進め、そのなかで頼めることを頼むなど、役割分担をするのがポイントです。
特に出産後に必要な物や内祝いの選定は、インターネットで探すことができるため、頼みやすいかもしれません。出産準備品や内祝いを扱うサイトもあるので、一緒に見ながら条件を話し合い、必要なタイミングで手配するよう話し合ってはいかがでしょうか。
一緒に準備を進めることで、新しい家族を築く第一歩にしてくださいね。
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●執筆者紹介
山口百合乃(助産師)
地域周産期センター、総合病院、個人クリニックと大小さまざまな病院で約2000件の分娩に立ち会い、約400件の分娩介助に携わる。現在はゆりの助産院を開業し、オンラインと訪問型の助産院の院長として活動中。3児の母。